DigitalBlast、産総研、金沢大学、東京電機大学、Labokoとともに 宇宙での細胞培養実験の自動化を目指した共同研究開始 宇宙空間でのライフサイエンス実験の可能性を広げ、 「Space Biology研究プラットホームの構築」を目指す
2024年8月1日
弊社は国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下、産総研)のグループ会社である株式会社AIST Solutions(東京都港区、代表取締役社長 逢坂 清治)、国立大学法人 金沢大学(石川県金沢市、学長:和田隆志)、学校法人 東京電機大学(東京都足立区、学長:射場本忠彦)、株式会社Laboko(埼玉県さいたま市、代表取締役:小此木智美)と、遠隔自動細胞培養技術を活用した「Space Biology研究プラットホーム」を構築し、国際宇宙ステーション(以下ISS)の「きぼう」日本実験棟(JEM)への装置設置を目指して共同研究契約を締結し、研究を開始したことをお知らせします。
■ 共同研究の背景
近年、NASAによるアルテミス計画をはじめとした有人宇宙探査が進展するとともに、人工衛星データ活用を中心とした宇宙ビジネスが成長し、民間企業の参入も相次いでいます。
今後、ISSが存在する高度400km程度の地球低軌道(LEO)での経済活動が活発化し、さらには月や火星などへも人類の活動領域が広がっていくことはほぼ確実です。しかし、宇宙は微小重力(無重力)・真空・高放射線量という地上とはまったく異なる環境であり、人類が宇宙空間で長期間活動するためには、特殊な環境への対策を講じることが不可欠です。
特に、宇宙放射線の人体への影響やその危険性・安全性を判断するためのデータは少なく、今後これらのデータを収集して宇宙活動における防護・対策を行うことが求められます。一方で、生体を用いた宇宙実験は困難であり、新たな実験・データ収集の方法を確立することが必要となっています。
現在、医学・ライフサイエンス領域では臓器を構成する細胞を培養し、それを微細流体チップ上に配置して薬物等への反応を見ることができる「臓器チップ」の技術が開発され、生体を用いず人体に近い環境下で実験を行うことができる手段として注目されています。
そこで、JEMへの細胞培養装置設置を検討しているDigitalBlastは、以前より遠隔自動細胞培養技術の開発を進めている金沢大学疾患モデル総合研究センターの木村寛之教授、東京電機大学工学部電子システム工学科の茂木克雄教授、および産業技術総合研究所・エネルギー・環境領域・省エネルギー研究部門・熱流体システムグループの髙田尚樹研究グループ長、Labokoの小此木孝仁氏とともに、 を目指して、共同研究を開始します。
金沢大学の木村寛之教授(中央)、東京電機大学の茂木克雄教授(中央左)、産業技術総合研究所の髙田尚樹研究グループ長(中央右)、Labokoの小此木孝仁氏(左)、DigitalBlastの松本翔平(右)と、DigitalBlastが開発を進めるライフサイエンス実験装置「AMAZα(アマツ・アルファ)」のモックアップ
■ 開発を目指す装置の概要と各者の役割
本共同研究では、宇宙環境における生体への放射線影響を、ヒトを模した「Organ-on-a-chip(臓器チップ)」で評価することができる実験装置の開発を目指します。
具体的には、臓器チップや細胞、オルガノイドを培養・管理できる機構を備えるとともに、研究者が宇宙で行いたい実験を実現できる装置とするため、事前に地上で作業内容をコーディングして処理を自動化する、遠隔で操作できるといった仕組みを備える予定です。
本装置に必要となる各種要素技術(自動化技術、遠隔操作技術、液滴制御技術、細胞培養技術等)については、すでに実用化の目処が立っています。しかし、それらが宇宙の微小重力下で動作するかの検証には、JEMでの実証が必要なため、2027年の実験開始を目指しています。
本共同研究では、茂木教授が細胞培養実験のための流体デバイスの開発を、小此木氏が流体操作技術の開発ならびにプラスチックの精密射出成形を行い、木村教授が細胞培養実験によるデバイスの評価を、髙田研究グループ長がデバイス内部流動の数値解析を行います。DigitalBlastは、JEMでの利用を想定した細胞培養実験装置の検討を担当します。
なお、本装置は宇宙放射線の生体への影響を観察することを当面の目的としていますが、機能を拡張することでライフサイエンス系のさまざまな実験に使用できる「Space Biology研究プラットホーム」として発展させていくことを考えています。
■ 今後の展望・地上産業への応用可能性
本共同研究では、宇宙における実験プラットホームの構築を目指していますが、実験操作の自動化や遠隔操作等が可能な装置は、地上でのライフサイエンス系実験や創薬の省力化にも応用可能であり、実現できればバイオ・製薬・医療産業にも大きなインパクトを与えうるものです。
現在、創薬や生化学研究の現場では人力による繰り返しの単純作業が多く行われており、作業を自動化する装置は存在するものの非常に高額です。宇宙というリソースの限られる環境で運用できる装置が開発できれば、低価格かつシンプルなローエンドモデルに落とし込み、地上の創薬・生化学業務を効率化することも可能だと考えられます。
また、装置への搭載を検討している遠隔操作・自動化技術は、薬品合成の遠隔化・自動化にも応用でき、日本のみならず世界の医療供給体制の充実にも寄与することが期待されます。